心 自 閑
二〇二二年 東村山市

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心自ずから閑なり

山中問答 李白

問余何意棲碧山   余に問ふ 何の意か碧山に棲むと
笑而不答「心自閑」 笑ふて答へず「心自ずから閑なり」
桃花流水杳然去   桃花流水 杳然として去く
別有天地非人間   別に天地の人間に非ざる有り

(意訳)
人は私に尋ねる、「どうしてこんなところに住んでいるのか、人里離れた山の中ではないか」と。
私は笑顔を返すだけで言葉にはしない。なにを言われても心は閑(静か)に落ち着いている。
桃花が浮かぶこの川が水を深々とたたえて、遠く遥かに流れて去っていくのを見ながら、
「人が生きる場所は俗世間にだけあるわけではない」そう思っているのだよ。


都会に暮らされていたお客さまが、郊外で設える終の棲家。
そこは、深い緑地のふもと、すぐそばに小川が流れる、モミジの美しい街でした。
この街で、緑、風、水、光と影、自然や街の音を感じ取り、
躰が開放され、素直になり、心自ずから閑になる、のどかな暮らし・・・

この家は、そんな暮らしのための小さな器です。

お客さまとの出会いは、2020年1月開催イベント「大人の火遊びのすゝめ」(日々の暮らし参照)でした。
何年も前から住まいづくりをご検討されていらっしゃるとのこと。

まずは「下ごしらえ」からお手伝いさせて頂きました。
生涯の資金計画を組立て、そこから住まいづくりの予算枠を検証しました。
お客さまとの対話を重ね、「私らしい暮らし」のイメージを共有させて頂きました。夢は、高校時代に習った李白の「山中問答」とのこと。
当初は都会から始まった土地選びですが、そのイメージにピッタリな土地は郊外で見つかりました。

基本設計の前半は、「私らしい暮らし」を具現化するため、十数案のプランを検証し、お客さまと何度も相談して「これしかない」プランにたどり着きました。
間取りはあえて北向きとして、遠くの緑地を望みつつ、陽が当たり輝く庭を家から楽しめます。大きなガラス窓を壁の中にしまえば、庭と家が一体になり、流れ込む風は吹抜けを介して家中を巡ります。
室内の壁には漆喰の押さえ仕上げを採用しています。光の反射率が最上位なので家の奥まで光が行きわたり、また生クリームのように白くてきめ細かいので光が優しくなり、光と影の美しいグラデーション、時々刻々の移ろいを楽しめます。
庭は小さいながら、街に開かれたエリアとプライベートなエリアに分け、プライベートな庭は板塀で囲い水鉢を設え、野点(屋外でお茶を点てること)が楽しめます。

基本設計の後半では、オーダースーツのようにお客さまの体を採寸させて頂き、台所、洗面、収納等造作家具の高さや大きさ、スイッチや水栓の位置等を1cm単位で調整しています。
空間のスケール感、光や風の取り込み方、風景の切り取り方などは、図面やパースだけでは伝わりにくいため、大型の模型で打合せしました(縮尺1/100が一般的ですが、その3倍以上の1/30を採用し、計画建物周辺の建物も再現しております)。

実施設計では、技術的精査、コスト調整、心地よさについて詳細を詰め、工事監理では、板塀の高さや水鉢の位置などを現場で造園家の小林さんとお客さまと調整しました。

お引渡しして数か月、お客さまは自然やご近所の方々とのつながりを楽しみ、自分らしく伸び伸びと暮らしています。

2022年竣工 東京都東村山市 敷地118m²(35.7坪)  延床80m²(24坪)  
施工:相羽建設株式会社、造園:小林賢二アトリエ、ランプ:OTANI YOSHIKO GLASS JAPAN
写真:市中山居、相羽建設株式会社
外装:杉板張り、内装:大谷石・杉無垢フローリング・漆喰(押さえ仕上げ) ・木建・障子

お客さまの声「自分にこんな家が持てるなんて、夢にも思いませんでした」
https://shichusankyo.com/2022/07/29/voice/

掲載記事
KLASIC「施主に寄り添いじっくりと下ごしらえ | 自然と人に生かされて暮らす、大人の住まい」
https://www.klasic.jp/construction/31890/

掲載記事
相羽建設 建築家と建てる「終の住処」| 自然と人に生かされ、心が自ずと閑になる住まい
https://aibaeco.co.jp/100story/life/life-4223/

動画|その後のお客さまの暮らしぶり|2023年7月11日 YouTube公開